『男の隠れ家 ONLINE』にて「大人の男のためのオペラ入門塾」連載中の上月氏が、08年度ザルツブルク音楽祭より、公演の数々をレポート!その第3回。
第3回<ロメオとジュリエット>
今年の音楽祭で1番人気だったのが、フランス・ロマン派の大作曲家グノーの代表的なオペラ「ロメオとジュリエット」であった。
この作品は言うまでもなく、世界で1番有名な恋愛悲劇、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を原作としたオペラ。舞台は、中世のイタリアの古都ヴェローナで、愛する2人のお互いの家が仇同士という背景のもと、悲劇が幕を開ける。この題材は多くの作曲家によって取り上げられ、ベッリーニは「カプレーティとモンテッキ」というオペラを書き、プロコフィエフは「ロメオとジュリエット」というバレエを書いた。また、ベルリオーズやチャイコフスキーも同名の管弦楽曲を書いている。

▲当夜の劇場は、岩をくり抜いて造ったフェルゼンライトシューレ、その客席風景
(c)Karl Forster

▲フェルゼンライトシューレ 外観壁面
ザルツブルク音楽祭で「ロメオとジュリエット」といえば、2002年にアラーニャ、ゲオルギューのコンビで上演されたが、その時は演奏会形式だった。そもそも主役の2人が美男美女でないとどうにも締まらないオペラになってしまう。今年のプロダクションは昨年の11月に発表された際は、アンナ・ネトレプコ、ローランド・ヴィラゾンというオペラ界の若きスター2人の華麗なる共演で大きな話題となった。しかし、アンナ・ネトレプコは、今年の春先に懐妊したことが分かり、予定日が9月ということで、ザルツブルク音楽祭はすべてキャンセルせざるを得なくなってしまった。ちなみにさる9月5日、ネトレプコは元気な男の子を無事に出産し、母子ともに健康とのこと。父親は、先週の「ドン・ジョヴァンニ」の時にも少し触れたが、ウルグアイ人バスのアーヴィン・シュロット。素晴らしい美男子になることであろう。

▲ヴェローナにあるジュリエットの墓
なお、話はそれてしまうが、どうも歌手のDNAというものは親から子へ伝わりにくいらしい。特に調べたわけではないが、偉大なオペラ歌手の子どもが素晴らしい歌手になったというケースはほとんど聞いたことがない。一方、ピアノやヴァイオリンや作曲や指揮などの世界では、いくらでも偉大なDNAは引き継がれたケースはあるというのに。歌手の場合、体自体が楽器なので、替えが利かないことが大きいし、声帯はとても微妙だからなのであろうか。
さて当夜(8月19日)の「ロメオとジュリエット」の話に戻ろう。
まず、アンナ・ネトレプコの代役だが、1983年生まれという若きグルジア人のコロラトゥーラ・ソプラノ、ニーノ・マチャイーゼ。一言で言うと、私は新しいスターの誕生を確信した!歌手が世界に出るきっかけというと、スター歌手の代役として登場、大成功を収めるというケースが圧倒的に多いと思われるが、マチャイーゼの場合、ザルツブルク音楽祭、ネトレプコの代役というこれ以上ないような天が授けてくれた大チャンスを見事にものにした。素晴らしく伸びのある声、アジリタのテクニックも完璧でアクートも十分に強い。小柄ながらはつらつとした演技、満面の笑顔もスター性十分。当夜のカーテンコールでも熱狂的な拍手が送られていた。

▲ジュリエット役のニーノ・マチャイーゼ、1幕の有名なアリア「私は夢に生きたい」のシーン
(c)Clärchen Baus-Mattar & Matthias Baus
ロメオ役はローランド・ヴィラゾンではなく、ジョン・オズボーン。こちらはヴィラゾンがキャンセルになってしまったのではなく、最初からこの日はこのオズボーンの予定の日だった。そして、このアメリカ人の若きテノールも素晴らしかった。この役は、アクートのBやHが何度も出てくる難役だが、ほとんどミスなく、密度の濃い美声を鳴り響かせた。また、2幕の有名なアリア「恋よ、恋よ」では、最後をデクレッシェンドしてppにし、力だけではないテクニックも披露した。また、フレージングがとても長いので、発声のフォームがとても良いのだと思う。

▲5幕のラストシーン ただし、ロメオはヴィラゾン
(c)Clärchen Baus-Mattar & Matthias Baus
他の歌手たちもさすがにザルツブルク音楽祭なので、それぞれに良かったと思うが、特に紹介したいのは、指揮のヤニック・ネゼ=セガン。1975年モントリオール生まれの若きカナダ人指揮者だが、ダイナミックでキレのある指揮ぶりでオケピットに入ったモーツァルテウム管弦楽団をグイグイ引っ張り、歌手や合唱とのバランスも見事に取っていた。

上月 光コウヅキ ヒカリ
(コラム:大人の男のためのオペラ入門塾)
イタリアン・スーツに身を包み、イタリアワインを飲み、ACミランを熱狂的に応援し、イタリア・オペラを愛す。音楽ツアー専門の旅行代理店を経営。初心者をオペラの世界に引き込む話術に定評あり

















