暗転したステージに、音がひとつそしてまたひとつと立ち現れる。幾つかの音が重なり、広い会議室に不思議な空間が現出し、声が流れ込む。「私の建築で使われるマテリアルそして形状は、音楽における異なる楽器による音色や音程・旋律です。その音を組み合わせ、音楽を編むように、私は建築を作るのです」……薄明かりが点き、そこに今回の主役、ピーター・ズントーその人が立っていた。
高松宮殿下記念世界文化賞の受賞記念講演である今回は『3-Buildings, 5-Projects』。ポスターに使用されたブルーダークラウス野外礼拝堂や聖コロンバ教会美術館という最新作を皮切りに、現在進行形のプロジェクトをそのスケッチや建設現場のスライドも交えつつ解説していくものだ。2007年に完成した上記の建築は、寡作であるズントー作品が同年に二つも完成したことも事件だった。またほとんどの作品が都市部を離れたひっそりとした場にある中で、聖コロンバ教会美術館はケルンの中心にあり多くの人が訪れ注目を浴びた。

▲ブルーダークラウス野外礼拝堂内観・2007年


▲第二次世界大戦で破壊された17世紀のゴシック教会の廃墟を、ズントーは4階建ての美術館として再生した。ただ教会廃墟は残し、ゴシック教会の更に下に眠るローマ時代より続く信仰の場を包み込むように現代の美術館を繋いだのだ【聖コロンバ教会美術館】
徹底的に素材にこだわりぬき、この土地の煉瓦を使い「セーターの網目のような」メッシュ状の壁と大きな窓というシンプルな外観。中に入ると細やかな光が柔らかく教会跡地を照らし出す一階、そして直線の美しい透明感ある現代的な空間をぬけ階段をあがると、陽光を受け輝く大理石の聖母子像がはっとした驚きとともに世界を変える。歴史から掘り起こされた教会美術と現代美術が並置され対話する幾つかの部屋を回りながら、大聖堂を見渡す最上階の大窓で終わるシークエンスはひとつの旅だ。


そしてケルンから一時間ほどの村にあるブルーダークラウス野外礼拝堂。ここは信仰に厚い一般のある夫婦が依頼をし、ほぼ材料費のみで村民とともに作り上げた小さな教会だ。その外観と内観の写真はしばしば紹介をされていても、いったいどのようにこの二つが繋がるのか想像がつかぬまま美しいと思っていた。この足と目で訪れたそのあとも、あまりに神秘的な内空間と直線が美しいコンクリートの外観は別のものとして存在していたが、今回の講演でその謎が少し解けた。教会の内部は天から光降る、ステンドグラスすら凌ぐ祈りの場である。




▲内と外を繋ぐ無数の穴は内壁を焼き上げ天に空いた小さな窓穴へ上昇する無数のラインを形成し、その後ひとつひとつにボヘミアングラスの球が取り付けられた。青い光が降り注ぐ時は空の青をそのままに映し出していたのだ【ブルーダークラウス野外礼拝堂】
彼は語る、その場所や歴史に対して最適のデザインと素材と用途を徹底的に作る。私は「遅い」建築家です、と。けれどトレンドや施主におもねることなく建築を、その皮膚(意匠)だけでなく骨と肉、そして血を通わせ自身の魂を込め作る。そうして建築はその場所に自生したような、場の神秘を凝縮したような「そこにあるべき」建築になる。 その後プロジェクトに関しての話題は『3&5…』のタイトルから逸脱し時間切れまで多くの写真を見せアイデアを語り続けた。スイスの職人肌の建築家が言葉どおり愛を込め、魂を込め作り上げる建築は、それほど山奥にあっても巡礼者のように訪れる人が絶えない。彼の建築を経験することはその土地と歴史を経験することだ。ノルウェーで進行中のルイーズ・ブルジョワと組んだ魔女裁判により処刑された100人の女性たちのための建築、そして英国のどこかで大きな倒木と緑の丘の写真を最後に写し彼は「ここに生まれようとしている、何かがね」とニヤリ笑って講演を閉じた。
〔ピーターズントー〕
Peter Zumthor(ピーター・ズントー、ペーター・ズントー。また母国語のドイツ発音ではピーター・ツムトールとも読む)。1943年スイス・バーゼル生まれ。同国ハルデンシュタインのアトリエを拠点に活動する。そして光と影の美しい静謐な空間と大胆なアイデア、素材やフォルムの吟味により生み出される作品は各国に根強いファンを持ち、安藤忠雄もファンであると公言している。
(取材・文/白田山美咲)

















